あの方の歴史 2
少なくとも30年代後半の服は例外をのぞいて、心を打たない。
何事も破壊しなければ気のすまぬほど激しい女だったから、あれやこれやを考えて、先手を打ったにちがいない。
オートクーチュールの未来は先細りだし(もっともナチスのお客でむしろにぎわってゆくのだが)、イタリア女のスキャパレリの追い上げをかわしながら、ストを打つ従業員には誇りを傷つけられて、うんざりもしていました。
56歳という年齢が、ある種の判断を狂わせ、少しばかり疲れてもいたろう。
ずっと働きつづけてきて、常にトップの座を守ってきたのだから、戦争は絶好の潮時だった。
彼女をあてにして暮らしている人びとたとえば、二人の弟たちと縁を切るのもこの時しかなかった。
何もかも切り捨ててしまい、好きな歌やピアノに明け暮れていたい。